医学部卒で医者にならないという選択肢ー医学生が思うこと

こんばんは、現役医学生のかずき(@kiyoc1220)です。
今回は、僕ら医学部生の卒業後の進路について話そうと思います。

まず前提として、医学部に入学した人はほとんどの人が「医者」になります。
では、「医者」とは具体的に何を指すのか?

一般的にイメージされる「医者」とは、病院で働く医師、「臨床医」のことを指します。

当然ながらこの臨床医になりたくて、医学部に入学してくる人が多いです。

そんな中、タイトルにあるように医学部を卒業して「医者」以外の道に進む人が最近増えてきています。
つまり「臨床医」以外の道に進む人が一定数いるのです。

しかしこの選択に対しては、世間からも同じ医者からも批判されることがあります

今回の記事ではその実態について解説し、記事の後半では、この批判に異を唱える、僕の医学生としての本音を述べようと思います。
記事が長くなりますので、読み飛ばしたい方は目次から読みたい項目にジャンプしてください。

臨床医の働く場所

臨床医以外の進路の話を始める前に、臨床医についての話を少しだけ。
臨床医の働く場所についてです。

臨床医が働く場所というのは、実は必ずしも国内の病院に限らないのです。
つまり、海外で働くこともできるということ。

しかしながら、日本の医師免許というのは、基本的に海外では通用しません。
つまり、日本の医師免許のみでは、海外で臨床医をやるのは不可能だということです。

よって、例えばアメリカで臨床医として働きたければ、日本の医師免許だけでなくUSMLEというアメリカの医師国家試験に合格することが必要になるのです。

しかし、中には日本の医師免許が通用する場合もあります。

それというのは、医師免許が確立していない発展途上国において紛争や災害等が起こった場合や、医師数が不足していて救援を求められた場合に診療活動を行う国際協力診療です。
例えば、国境なき医師団が有名ですね。

その他にも、日本の医師免許が通用する国があります。
それは、マレーシア、ベトナム、シンガポール、上海、そしてドバイといった国(都市)です。

これら東南アジアの3か国と上海では、日本の企業が多数進出しているため、在留邦人がたくさんいます。
そして、その滞在している日本人のみを診療することを条件に、日本の医師免許で働くことが許されているのです。

患者さんが日本人なので、診察は基本的に日本語で行うことになり、比較的ハードルは低めではないかと思います。

しかし最近シンガポールでは、医師の質の担保という名目で、日本の医師免許だけで働ける日本人医師の出身大学を、東京大学、京都大学、大阪大学に限定することが決まってしまいました。

シンガポールは大都会で年中気候も変わらないので住みやすく、また物価に伴って給料も高いため、志望する医師が多かったからかもしれませんね。

これら3大学出身の方は、選択肢の1つに入ってくるでしょう。

 

最後はドバイについてです。
こちらは僕がドバイに旅行した際に知ったのですが、日本人医師が何名か働いています。

ドバイにも日本企業が多数進出しているため、日本人向けのクリニックをやられてる方もいますし、外科医として国籍関係なく執刀されてる医師もいらっしゃるようです。

実はこのドバイ、中東にありながら、日本の医師免許+書類・面接審査に通れば患者の国籍関係なく診療ができます。

しかも、所得税がかからず、現地人(アラブ人)の平均年収が約2000万円とも言われるドバイですから、医師ならかなり高給となります。

ドバイ勤務に関する情報がまだあまり出回っていないのは、勤務する日本人医師が少ないからだと思いますが、今後ドバイに飛ぶ医師が増え、そのようなキャリアパスが確立されることを願いたいところです。

 

臨床医以外の選択肢

さて本題に入りますが、臨床医以外の選択肢としてまず一番に上がるのは、医学研究をする研究医でしょう。
研究医という選択肢は説明するまでもないと思うので今回は割愛します。

では、残りの主なキャリアを1つずつ見ていきましょう。

産業医

企業等の事業場において、労働者の健康管理を行う医師。

研修や講座を受講し、産業医資格を得ることで務めることができる。

専任産業医なら9時~17時で週4~5日勤務が多く、嘱託産業医であれば、バイトとして臨床医と兼務することができる。

医系技官

厚生労働省等の行政機関で、保健医療に関する制度づくりに携わる医師。

医師3年目から就職する医師が多い
が、
キャリアの途中で医局から派遣され、数年間のみ人事交流という形で勤務することもできる。

臨床医より収入は低めで、勤務年数ではなく医学部卒後年数で給与が決まることも特徴。

官僚ゆえ医師同様に忙しく、国会期間中は多忙を極めることも。

公衆衛生医師

保健所県庁、市役所などで、感染症対策や母子保健、災害時の危機管理、医療機関への指導など、公衆衛生分野を中心に様々な業務をこなす医師。

収入は臨床医と比べ少なくなる傾向があるが、公的機関なので週休二日制である。

査定医(保険会社)

保険会社で働く医師。

業務内容としては、保険の契約希望者の健康状態を診て、入会を許可できるか判断する診査
健康管理証明書等を見て契約の妥当性をチェックする引受審査
保険金や給付金の支払いが発生した場合にその公平性をチェックする支払診査がある。

収入はそこそこで週休2日制だが、やりがいを見出すのが難しいのか人手不足気味である。

 

矯正医官

法務省に勤める国家公務員で、刑務所で被収容者の診察や指導をする医師

同じく収入はそこそこ良く、週休二日制だが、こちらも法務省が積極的に募集を続けている。

法医学医

大学院の法医学教室や研究機関で、事故や事件の被害者となった人の遺体を解剖し、鑑定する医師。

こちらも常に人手不足であり、40代でも年収1000万円を上回ることのない収入の低さが大きな原因と言われている。

国際保健

国際協力分野では、国境なき医師団のような臨床医だけではなく医療保健分野で働く医師も存在する。

例えば、WHOなどの国際機関や、外務省所轄の国際協力機構であるJICA、そこから委託され、現地で専門的なスキルを提供し実際に調査や作業を実施する開発コンサルタント、さらに国際協力NGOなどで医師の募集がされている。

国際協力なので収入は低めだが、特に国際機関JICAの専門家は人気が高く就くのが難しいポストとなっている。

外務省医務官

在外日本大使館で働き、大使館員とその家族のみの診療にあたる国家公務員

現地の医療情報の提供や、現地在留邦人への健康指導、その他大使館員としての業務を行うこともある。

10年目以上の医師のみ応募できるポストである。

2年ごとに駐在国を移るが、少なくとも最初の2期は途上国勤務が多いようである。

海外赴任手当がつき、途上国地域の場合はさらにハードシップ手当がつく上に、また支払う税金もかなり減るので、実際に得られる手取り収入は臨床医よりかなり多くなる。
また、途上国勤務が多いので出費も抑えられることになる。

しかしながら、スキルアップが望めないこと、やりがいを求めるのが難しいことがでめりデメリットとして挙げられる。

 

船医

会社と契約する常勤船医もあるが、数か月単位でバイトとして行う非常勤船医もある。

気象庁、海上保安庁、調査船、客船などに船医が乗船する。
豪華客船等の船医は、医師経験年数の多い年配の方が務める場合が多い

基本的に船上で起こりうる全てのケガ・病気に対応しなければならず、インターネットが通じない場合もある中、重症患者を近くの港で下船させるか、ヘリコプターで搬送するかなどの判断が求められる。

乗船する船医は1人のことが多く、当然ながら毎日勤務することになるが、緊急対応に追われるときや健康相談時以外は基本的に暇という特殊な勤務体系が特徴である。

 

検疫官

空港で、感染症の国内流入を防ぐことを目的に、入国者のスクリーニングや医療機関への搬送、ワクチン接種などを行う医師。

厚生労働省管轄で、国家公務員となる。
全国各地で公募を行っている他、人員が不足している検疫所には医系技官が派遣されることもある。

基本的に週休2日制だが、24時間稼働の国際空港では不規則な交代制のシフトが組まれている。

 

医師国家試験対策予備校講師

医師国家試験や進級試験などの対策講義を行う講師。
ビデオ授業も担当する。

この予備校講師は基本的に医師免許持ちの人しかなれないので、例えばメックという予備校では、医師7~10年目で月額150~190万円とかなり高い給料が設定されている。

製薬会社

製薬会社で、主にメディカルドクターとして仕事をする医師。
メディカルドクターとは、新薬の開発や薬の安全性、有効性を審査する医師である。

また、薬の市販開始後の市場動向を調査するメディカルアフェアーズとしての仕事や、病院等に対しMRのような営業を行うこともある。

外資系製薬会社で特に採用が盛んで、本国との打ち合わせや海外出張があるため、英語力が求められる。

基本的に週休2日制で、収入は臨床医と同じかそれより高めで、出世すると年収2500万円程になることもある。

 

医療機器メーカー

製薬会社が薬物治療の経験豊富な医師を求めているのと同じように、医療機器の知識が豊富である医師を雇用している会社がある。

医師は、主に医療機器の開発と営業を行っている。

 

 

コンサルタント

コンサルタントが所属するコンサルティングファームには、戦略系、総合系、シンクタンク系、医療系といった種類がある。

医師の転職先として多いのは戦略系医療系で、マッキンゼーやBCGといった外資戦略コンサルティングファームには、医学部/医師の採用枠があると言われている。

医学生や医師は高い論理的思考力を持っている人が多い傾向にあり、ニーズがあるようだ。
実際、東大医学部ではマッキンゼーが直接採用説明会を開いており、人材を引き抜きに来ている。

さらにマッキンゼーは最近、名門中高一貫校しか入塾できず、東大や国公立医学部合格者を多数輩出することで有名な鉄緑会という塾で、高校生を対象にしたコンサル体験会を開いている。
医学部志望の高校生が多い塾なのにも関わらず、定員はすぐに埋まったようで、コンサルに興味を示す医学部志望者が多いことが伺える。

また、医療系では病院などの医療機関や医療メーカーに対して、経営課題を発見し解決案を立案するが、そのような案件の中で、医療を実践する医師の立場と知見が求められている。

総合系やシンクタンク系においても、ヘルスケア領域で医師が採用されるケースがある。

 

弁護士

医学部生もしくは医師の中には、弁護士資格を取り、弁護士になる人もいる。

最近医療ミスや医療事故を訴える医療訴訟が増えてきており、医師免許を持つ弁護士は需要があると思われる。

 

総合商社

なんと五大総合商社のような商社でも医師の中途採用が積極的に行われている。

というのは、ここ最近ヘルスケア分野への積極投資が進んでおり、病院経営にも参画しているからだ。
実際に、シンガポールの病院に出資している三井物産では、医師免許持ちの社員が新規事業立案に取り組んでいる。

 

政治家

医師の中には、自ら社会を変えようと政治家になる人もいる。

県知事や市長、国会議員など様々だが、医師免許持ちの国会議員の数は想像以上に多く、
2017年の衆議院選挙では41人が立候補し12人が当選、2019年の参院選では8人が立候補している。

 

起業家

医療ビジネスという形で医療に貢献しようと、医療ベンチャーを立ち上げる医師が最近増えてきている。

外資コンサル勤務やMBAの取得を経て起業する医師が多い。

 

医療ベンチャー・その他医療系企業

先ほどの起業家に関連するが、医師などが立ち上げた医療ベンチャーやその他医療系企業でも医師の採用が行われており、医師が参画している。

 

スポーツドクター

整形外科医で、スポーツ選手専門の医師。
医師免許とは別に、講習等を受けてスポーツドクターとして認定されることが必要である。

スポーツチームに帯同する専属のチームドクターもいれば、試合会場に待機する会場ドクターとしてのアルバイトもある。

その他、スポーツドクターと類似するものには、格闘技のマッチドクターや、競馬場の医師というのもある。

 

以上、様々な職種を紹介してきましたが、他にも外資金融新聞記者作家など、医学部卒業者の進路は数多くあります。

 

 

なぜ医者にならないことで批判されるのか

臨床医にならないことで、世間や同じ臨床医から出てくると考えられる批判に対して思うことをここで述べていこうと思います。

「せっかく医学部に入ったのに、医者にならないのはもったいない」

この問題を考えるには、なぜ医学部に入学したのかを考慮する必要があります。

医学部を志望した理由として主に挙がるのは、
「親が医者だから」
「自分を診てくれた医者が…」
「医療ドラマで…」

そんなところでしょう。

しかし、中には僕のように、

「医者になりたくて医学部に入ったのではなく、医者になれるから医学部に入った」

という人も一定数いるはずです。

どういうことかと言うと、

医者になるかはわからないが、医学部に入学しないと医者にはなれないから医学部に入った、ということです。

医学部に入学するかどうかは、高校生の時に決めなければなりません。
しかしながら、将来の職業を高校生の時に決められるでしょうか?

高校生にして職業選択を迫られるのは医学部くらいですが、高校生には、大学生の就活みたいに様々な職業を吟味するタイミングはまずなかったと思います。

アメリカでは、通常の大学に4年間通った後、メディカルスクールに4年間通って医師免許を取得する形なので、他学部と同様に職業選択を考える時間はあります。

しかし日本の医学部は、大学の学部の要素と、メディカルスクールのような職業訓練校の要素を兼ね備えているために、このような問題が起こってしまうのです。

おまけに、医学部はたまたま理系で最も偏差値が高く、受験勉強が得意なだけで入学してしまう人がいるのも事実です。

臨床医になりたくて入学した人の中にも、医学の勉強や実習を通して、自分の想像とのズレを感じる人ももちろんいると思います。

逆に、
医学部に入学して全員医者になる方がおかしいんですよ。

僕なら、

「せっかく医学部に入ったのに、医者にならないのはもったいない」のではなく、
「せっかく医学部に入って医師免許(という保険)が手に入るんだから、好きなことをやらないともったいない」

と返します。

これは医師免許のいいところで、医師免許さえあればいつでも病院に戻ってこれるからこそ言えるのです。

医師免許は、業務独占資格の中でも最強だと思います。

 

 

「医者一人を養成するのに多額な税金がかかってるんだぞ、税金の無駄遣いだ」

まず前提として、国公立の大学生であれば誰にでも多額の税金はかかっています。
その中でも医学部は、一人当たりにかかる税金が高いから問題なのでしょう。

ここで1つ疑問が生まれます。

医学部を卒業して医者にならなければ、税金の無駄遣いになるのでしょうか?

どの道に行こうとも、医学部で学んだことは無駄にはならないはずです。

かつて、医学部生が新卒でテレビ局に入社した件で賛否両論巻き起こりましたが、
テレビ局が医学知識を持つ人を求めているから、実際に医師を雇用しているわけです。

医学的に間違っていることをテレビで報道すると、社会に及ぼす影響は絶大ですからね。

臨床医とは違う形であれ、社会に貢献しているのであれば決して税金の無駄遣いではありません。

 

「医者にならない人が増えるとますます医師不足になる」

臨床以外の道に行く人が医学部の多数を占めてくると、確かに問題となるかもしれません。
しかし、実際は多くても10%未満でしょう。

もしそのような人が目に見えて増えてきたら、医学部の定員を増やせばいいだけじゃないですか?

なお現在、全体としては急速に医師供給過多に向かっており、国も医学部の定員削減に向けて動き出しているところなんですけどね。

医学生のキャリア選択に文句言う前に、医師の診療科偏在・地域偏在を解決するために頭を使ってほしいところです。

 

「臨床以外の道に行くやつは落ちこぼれ」

医師の間ではこう言われることがあるようですが、他人のやることをただ批判する人というのは、

結局現在の自分に不満があり、他人に嫉妬しているだけです。
やりたいことを仕事にできていて、働き方がホワイトであったり高収入なのが羨ましいのでしょう。

自分の仕事に満足しているならそんなことは言わないはずで、
嫉妬するくらいなら自分で行動すべきです。

そんな視野の狭い人の言うことなど放っておきましょう。

 

 

同じ医学生へ伝えたいこと

医学部はとても閉鎖的な環境です。
自大学の医学部以外の人とあまり接点を持たずに、6年間を過ごす人も多いかもしれません。

そうなると、将来臨床医になる人たちに囲まれることになるので、臨床医以外になるという選択はまず生まれてこないでしょう(幸いなことに、うちの大学ではそうではない人が結構多いですが)。

医学生は全員、医師になる前に病院実習という形で臨床医の仕事には触れることができますが、
その他の仕事には、カリキュラム上でほとんど触れることはありません。

そこで、医学生の間にやるべきだと僕が思うことは、
「いろんな選択肢があるということを知ること」と、そのうえで
「興味を持ったことについて、さまざまな人の話を聞き、交流し、実際に関わってみること」
です。

 

いろんな選択肢があるということを知ること

本記事を通して、どんな選択肢があるかはおおよそおわかりになったかと思いますが、聞いたことのないものも多かったのではないでしょうか。

僕がよく話すことなのですが、「知らない」ということは、大きな機会損失です。

就活でも同じことが言えます。
「やりたいことがわからない」という人の原因の1つは、そもそも「知らないこと」なのではないかと思っています。

「知らないこと」は、絶対に選択肢にはならないのですから。

そのような就活生には、他人事ながら「知らないことが原因の可能性があるから、まず情報をたくさん浴びるべき」と言いたいです。

要するに、「とりあえず臨床医」ではなくいろんな選択肢を知った上で選択した方が良いということです。

これは、臨床医になることを否定しているわけではありません。

いろんな選択肢を知ったうえで、臨床医になることを選択するならば、それがベストだと思います。

ではなぜ「知るべき」かというと、
「就活をしない医学部の特殊な環境のせいで、天職を見逃している可能性があるから」
「医療費が抑制される中で、医師数が増え人口減少が進み、臨床医の待遇がどんどん悪化していく中で、臨床医以外の可能性を残せるから」
です。

今後、誰がどう見ても臨床医の待遇は悪化します。
待遇が良くなる要素が1つもないからです。

しかしながら臨床医を辞めたくなっても、知らなければ柔軟に行動することもできません。
じゃあその時にまた考えたらいいじゃないか、という声が上がると思いますが、その答えは次の章に続きます。

 

興味を持ったことについて、さまざまな人の話を聞き、交流し、実際に関わってみること

研修医や医師の方によく言われますが、医師になってからでは何事にも腰が重くなるので、時間があるのは学生のうちだということです。

セミナーやイベントに多く参加したり、医学に関わらず様々な分野の勉強をしたり、インターン等に行けるのはやはり学生の特権だと思います。

 

プロフィール・僕の活動

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厚生労働省の医系技官についての記事はこちら→【年収は?激務?】厚生労働省の医系技官に話を聞いてきた

 

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